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父親たちの星条旗 [映画感想 た行]

父親たちの星条旗 (特別版)

父親たちの星条旗 (特別版)

  • 出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ
  • 発売日: 2007/05/03
  • メディア: DVD

映画タイトル:父親たちの星条旗
初公開年月 :2006/10/28
監督:クリント・イーストウッド
脚本:ポール・ハギス
出演:ライアン・フィリップ  ジェシー・ブラッドフォード アダム・ビーチ  他

■2006.10.30(月) 本日の一言■

この映画はいわずとしれたクリント・イーストウッド監督の映画で、太平洋戦争末期の
硫黄島で行われたアメリカ軍と日本軍の戦いをそれぞれの視点で2部作で撮影された。
そして『父親たちの星条旗』はアメリカの視点で描かれた第1部である。
実のところ、前回製作されたクリント・イーストウッド監督の『ミリオンダラーベイビー』を
鑑賞した際に、そのあまりの重さに私は辟易し(--)当分の間、彼の撮影した作品は
観るのを止めよう・・と思っていた。
しかし日本からみれば、戦勝国であるアメリカ人の監督が見た硫黄島というテーマは、
例え重くとも観て損はないと思ったし、ましてや重いテーマがお得意のイーストウッド監督で
あれば、きちんとした作品を撮ってもらえるような気がした。
ということで『父親たちの星条旗』を観にいってきた。今回は戦争がテーマの映画だけに
感想が固くなるような予感がするが、まぁとにかく書いておこう。(^^;;;;)

まずはあらすじから。
太平洋戦争末期、硫黄島に上陸したアメリカ軍は5日で日本軍を陥落させることができる
と考えていたが、予想以上に日本軍は手ごわく戦闘は長引き、多くの死傷者をだしていた。
そんな戦闘のさなか、アメリカ軍によって硫黄島の山の頂上に星条旗がのぼり、その瞬間を
撮影した写真が新聞に掲載されると、戦争に疲弊感を感じていたアメリカ国民は勝利を
確信し熱狂する。政府と軍はこの熱狂を利用し、戦争費用を稼ごうと考え、星条旗を偶然
掲げた兵士たちアメリカに帰国させ、英雄にまつりあげながらキャンペーン活動へ突入
してゆくのだったが・・

それでは感想である。
★以降、ネタバレがありますよ★

この映画の主役になる3名の兵士たちは、手柄や名誉や位などを望まず戦争を終えて
無事に命をもちかえりたいと願いっていただけに過ぎなかったはずであった。
実際、島に上陸し、軍の駒1つとして扱われいた彼らは、一つの戦闘で重傷を負ったほかの
兵士が見捨てられたり、ましてや死んでしまえば、それまでよ・・という現実を見て、
本国にいた当時に聞いていた「アメリカ軍が、いかなる時でも兵士を見捨てない」という
フレこみがただの美辞麗句であったことに気づくが、時はすでに遅しという現実の中で
なんとか生きのびたいという一心で、ほぼ運だけで銃弾をよけながら戦闘の中にいた。
そんな戦闘が一休止した中、主役になる3名の兵士たちのいる部隊が硫黄島の山頂に、
星条旗を立てる任務を受け、旗を山頂に立てた。彼らにとって、ただそれだけのことであり、
誇ることなど何もしていないのだ。
しかし、日本でも一度は目にしたことがある一介の兵士たちが必死に(必死なように見える)
星条旗を山頂にあげる写真は現場の醜さを消して、苦労こそあれど目的を達成しました、
即ち勝利はもうすぐそこに・・というメッセージとしてアメリカでは受け入れられて
しまうのだ。
写真に写っていた生き残りの3名の兵士に突然の本国への帰国命令がくると、
彼らは有無もなく帰国の途につき、政府と軍、そしてマスコミの力とそれに反応する
アメリカ人にヒーローへと祭り上げられ、戦争資金を調達するキャンペーンボーイの役を
押し付けられるのだ。
前置きが長くなったが映画の前半はこのような形で物語が進行してゆく。
その後は戦場とは正反対の華やかなパーティや大勢の国民を集めての大会のシーンと
3名の兵士たちが、フラッシュや照明といったふとした機会ごとに戦場を思い起こし、
この茶番と自分たちが国からおおせつかった英雄という役に日々、違和感を覚えてゆく
シーンが交互に画面を占拠してゆくのだ。
人間ある程度の年齢になってゆくと、新聞やマスコミが書く美しい記事をそのまま
受け入れる程お人よしにはなれなくなってくる。その裏には必ずといっていいほど、
やらせや仕込み、金、思惑といったものが、うごめいていていることに気づく人も多いのでは
ないだろうか。
しかしその熱狂が起こっている間、それについて「おかしいのではないか・・」と言う者は少ない。
よくて熱狂が過ぎて何年か後に実はそのカラクリは、このようになっていました・・と
小さな記事や視聴率もとれないような時間帯にTV番組で放映されるのが常だ。
そもそも、戦争にヒーローなどはいない。ヒーローが必要なのは戦場に立たない者たちであり
ヒーローを作り上げる者も然りなのだ。
そこに視点をあて大袈裟にすることなく、淡々と事実を追い、戦闘シーンも
目に見えぬ敵(日本兵は地下からの戦いが主だった)と戦っているような緊迫感と
アメリカ兵の死んでゆく原因が小さな銃弾であることが、妙な現実感を見せつけ、
熱狂が去ったあとの英雄に祭り上げられた兵士たちの悲しいその後を約2時間15分に
まとめあげたイーストウッド監督には頭が下がる。
さて次に、この映画で、一箇所だけ違和感を覚えた部分も書いておこう。
それは英雄となった兵士の一人が、その後、父となり老人となり心臓発作を起こして
倒れた後、息子が父の過去を辿り調査を始めるのだが、何故、そこまで父の過去に
こだわり調査するにいたったのか?納得するものが映画の中で見出せなかった。
いつの間にやら息子が父の過去について調査しているシーンが画面に存在し、
病室で意識を回復した父へ息子が語り父と抱き合い、病室を出たのち再び家族と抱き合う
シーンが流れたのには、アメリカ映画特有の『家族』や『愛』がおお手を振って歩き出す、
鼻持ちならない感じを受けた。映画のタイトルが『父親たちの星条旗』だったから、
まとめとして家族愛のシーンを挿入したのか?
私はエンディングロールを眺めながら、突然にあらわれたこの妙な甘さに「うぅううう」(--)と
唸らざる得なかった。

次に俳優の感想。

この映画で、有名な俳優は一人も出演していない。
唯一、知っていたのは、映画『クラッシュ』で、そういえば出ていました!
ライアン・フィリップくらいで、正直にいってあとの俳優さんは「どちら様?」状態の映画である。
もっとも着用している軍服とヘルメットで見分けがつかず、もしかしたら物凄い大物俳優が
何気に出演している可能性も高いのかもしれない。しかし出演している俳優さんたちに、
演技の下手な者は一人もおらず、政府高官は高官らしく、軍のお偉いさんたちは偉いさんらしく、
母、恋人、道端で出会う警察官にいたるまで役になりきり演じてくれているのは、
観ていて非常に気持ちがよい。
ライアン・フィリップが演じていた衛生兵も、人がよく任務をまじめに遂行しようとする人間を
好演していて演技や俳優についてケチをつけたくなる者は一人もいない。
エンディングロールで流れる、英雄になった兵士たち当人の写真もでてくるのだが、
彼らの雰囲気と俳優がうまく噛み合っていることが確認できたのは良かった。

最後に映画の全体的な感想を書いておく。

アメリカ側から見た硫黄島・・ということで、戦争モノであるにも関わらず、冷静に最後まで
映画を観終えることができた。
戦争映画は、流血シーンがあって観ていられないという人もいるかもしれないが、
流血や痛いのが苦手な私でも耐えうる作りになっているのはありがたかった。
この映画で知ったことは、当時、日本が物資もなくなり七転八倒している間、アメリカは
楽勝ムードで日本と戦っているのかと思っていたのだが、その裏でアメリカもまた
資金不足に悩み、英雄を作り出し資金を得なければならなかったということだ。
その裏の内情について妙に小難しいセリフや人間関係を交えずに、
多くの人に理解できるような映画は、簡単なようでなかなか作れるものではないと思う。
大手をふった反戦映画ではないが、美辞麗句で飾ったモノが出現してきた時には、
多いに注意が必要であり、それに乗るなという警報を鳴らしてもらえたような気がする。
一度は観て損は決してないと思う。
私は重いテーマながらも、秀作な映画をみさせてもらった気分である。
充実の約2時間15分。『硫黄島からの手紙』にも期待をしたい。


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コメント 6

まなてぃ

>noricさん、Niceありがとうございます。(^^)
by まなてぃ (2006-10-31 19:12) 

こんばんは。戦争には英雄はいないってことですね。この映画からはこの戦争が壮絶だったというのはイマイチ伝わってこなかったのですが、それは日本側からの『硫黄島・・・』の方で描かれるんでしょうか。こちらもかなり期待の一本ですね。
by (2006-11-04 21:04) 

まなてぃ

>rabyrinthさん、Niceありがとうございます。(^○^)
by まなてぃ (2006-11-05 09:35) 

まなてぃ

>katoyasuさんコメントありがとうございます。
アメリカ側からの戦争が壮絶?というようには確かに見えなかった
ですね。どちらかといえば、お金の問題が壮絶だったのか?な?と
この物語は、アメリカ本土の隠れた壮絶さを見せたかったのかなぁ・・
なんて思いました。
『硫黄島からの手紙』・・こちらは期待大ですね。自国の物語だけに
少々、贔屓目でみてしまうんじゃないかと、『父親たちの星条旗』が
終わったあとに流れる『硫黄島』の予告編を涙目になりながら
見て思いました。(^^;;)しかしそれでも早く観たい作品ですよねっ!
by まなてぃ (2006-11-05 09:40) 

朱色会

戦争にヒーローはいない。あるのは作られたヒーローということですね。61年前もそうだったし、そのつぎの戦争もそうだったし、最近の戦争もやはりそうでした。。。。ひとつだけ、かの国が救いなのが、そのことを著す映画については自由な表現の行使が、妨げられていないことでしょう。
コメントありがとう。
by 朱色会 (2006-11-05 20:24) 

まなてぃ

>こんばんは。朱色会さん、Nice&コメントありがごとうございます。
確かにアメリカが戦争を映画にする技術と表現力には、目を見張る
ものが毎回あります。次回の『硫黄島からの手紙』などは敵方、
日本の視点からみた戦争の話ですよねぇ。なかなかこういうのを
作るのは、感情的にも難しいことだと思うんですが、そこを乗り越えて
撮影するとは頭が下がります。
まだまだ日本では難しいのか・・日本からこういった映画がでる事を
期待したいんですけどねぇ。(^^)
by まなてぃ (2006-11-06 18:24) 

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