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ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~ [映画感想 は行]

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映画タイトル:ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~
初公開年月 :2009.10.10
監督:根岸吉太郎
脚本:田中陽造
出演:松たか子 浅野忠信 室井滋 伊武雅刀
   広末涼子 妻夫木聡 堤真一 他


<映画ONLINE参照>

戦後間もない混乱期の東京。
小説家の大谷は才能に恵まれながらも、私生活では酒を飲み歩き、借金を重ね、
おまけに浮気を繰り返す自堕落な男。
放蕩を尽くしては健気な妻・佐知を困らせてばかりの日々。
ある日、行きつけの飲み屋“椿屋”から大金を奪って逃げ出してしまった大谷。
あやうく警察沙汰になりかけるが、佐知が働いて借金を返すことでどうにか収まる。
こうして椿屋で働くようになった佐知だったが、その評判はすぐに広まり
佐知目当ての客で賑わい出す。
そんな佐知の前に、彼女を慕う真面目な青年・岡田や昔佐知が想いを寄せていた
弁護士・辻が現われ、にわかに心揺らめく佐知だった。
いっぽう大谷は、そんな佐知の姿に嫉妬を募らせ、ついに馴染みのバーの女・秋子と
姿を消してしまうのだが…。


※以下からネタバレ必須です。※
■2009.10.13(火) 本日の一言■

久しぶりの邦画鑑賞をしてきた。
本日のお題は、『ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~』、原作は太宰治。

さて・・太宰治の小説を読んだことがない人から
太宰治ってどんな小説を書く人?と聞かれたら、

私が読んだ小説に限っていえば・・
箸にも棒にもひっかからないような、だらしのない男がでてきて、
女を食いモノにする小説を書くのが得意な作家。
あと・・かなり、もったいぶった言い回しが好きな作家。(--;)と
言うだろう。

で、この映画は先にのべたように太宰治原作のお話であるから
しょうもない男、大谷が主人公の佐知の夫として登場する。

まぁ・・下の左の写真は浅野忠信が演じる大谷で、右横は太宰治。

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太宰治の有名なポートレイトと同じポーズをとらせていることからも、
映画の中の大谷が作家、太宰治の分身と言っても過言ではないだろう。

で・・映画の中でも、
大谷の書く小説は、太宰と同じように美しく艶めいていて、
男女を問わず、それを読む人間を虜にすることができるけれども、
小説家ではない生身の彼自身と関わった人々は、
多大な迷惑を彼からこうむっている・・ということで・・
これまた現実の太宰治と重なるところはかなり多い。

事実、太宰治の放蕩癖、大酒飲みで薬物中毒、借金にまみれ、女にだらしなく、
自殺願望があり、女との心中事件を何回か起こしているのは有名な話だ。

名作を書いていなかったら、ただのロクデナシのヒモ男だと、私は思う。

で、このしょうもない男のエピソードは初っ端からスクリーンに提示される。

まずは、
高名な小説家というふれこみと、大谷のかもしだす雰囲気にだまされ
¥20,000もの飲み代を踏み倒さた、飲み屋の夫婦。(伊武雅刀と室井滋)

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このベテラン二人の演技が、映画をまるで現実の世界にあるかのように
してくれたと思う。二人とも助演名俳優ですな!(^▽^)

彼らは大谷に稼ぎの¥5,000を目の前で奪われ、
それを取り戻そうとしたあげくに、大谷に刃物をふりまわされ(◎◎)
必死の思いで大谷のボロ家へやってきて、
盗んだ金だけでも返して欲しいと
大谷の妻、佐知へ直訴しにやってくるのだ。

ここに出てくる大谷の妻、佐知(松たか子)が大谷の放蕩で生活に窮しているのに、
ハッとするような瑞々しさをもって登場してくる。

それは暗い夜道、さんざん彷徨ったあげくに朝日に出会ったような
すがすがしさ・・を女の私でも感じたほどだ。

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まぁ・・現実に生活に窮していると女は、
こうも瑞々しくはいられない。肌だってあれるだろうしね。
しかし!ここは映画の世界だから許されるんだろう。
だいいち、萎んだ松たか子なんて誰も観たくはないし。(笑)

で、大谷のツケ代金を返すために、
飲み屋の夫婦の店で働くことを決めた佐知は、

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自分の魅力が、意外にもお金になることを発見!して
生き生きとしだし!

映画を観ている客をく( ̄△ ̄)ノガンバレェェェ!! 佐知!
と、応援したくなるような気分にさせられるんだな・・これが。

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で、佐知に想いを寄せるようになる、飲み屋の常連客、岡田(妻夫木聡)とか・・
(最初は、結婚したいほど佐知のことが好きだとは・・見えませんでしたが・・)

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仕事帰りの電車の中で偶然の再会をした
佐知の昔の想い人で弁護士になっていた辻(堤真一)!が登場してきて、

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佐知のまわりも、妙に色めきたってくるんですな。
誰の目から見ても、この男たちは大谷より、はるかにマトモな精神をもった
男たちですがな。
私なんぞから言わせると大谷なんかとは離婚して、どっちかと再婚したら
いーんじゃないの?とオバちゃんのお節介心がうずきまして・・。(笑)

でもそれと同時に、家に閉じこもっていたら気付かなかった
大谷の愛人(広末涼子)の存在もまた、佐知は知ることになるのだねぇ。

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そもそも、己の借金と盗人事件が発端で、妻が飲み屋で働くことになったのに、
妻が色めきたち、艶やかになることに目をつぶることができない大谷は
妻にむかって
「男ができただろう・・」やら
「妻に捨てられる男になりそうだ」やら、言うにことかいて毒を吐く。

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(映画では小説家らしく、もっとまわりくどいセリフを大谷は言っていたけどね
いっくら格好をつけて言ったって、はっきり!わかりやすく書けば、
こういうことなのだ。格好つけんなよぉ!大谷めぇええ!凸(--;)ガルルルル!)

また佐知も、ここで大谷に対して大きく反撃に出ないところが、私には不思議だった。
(だから太宰治の小説とも言えるのだけれども・・・)
佐知がいくら、客からもらったチップを家のたくわえにしようとしても
それを、飲み代にかっさらっていく亭主を軽くナジリこそすれ、
アッパーカットは食らわさない。

大谷は、佐知の財布にできた大きな穴だ。
旦那というものが、ありがたい存在であるには、
まずは生活の糧になるお金!を家庭にもってきてこそ!ではないのか??(◎◎)
大谷なんて!あきらかにマイナス!借金!しかもってこないんだよ!!・・
なぜに夫を張り倒さないんだろ? と鑑賞中、私の首は捻じ曲がりそうだった。

そして、佐知に想いを寄せる岡田が、
大谷に請われるままに共に酒を飲み、
「佐知さんをください」とまで言って頭をさげ、

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その夜、泊まらざるえなくなった大谷家で、
佐知と岡田が口づけを交わすのを見た大谷は

自分の家を飛び出し・・(--)ヘェヘェ・・

(ここで私、大谷め!一生戻ってくるなぁあ!
と心の中でスクリーンに向かって叫ぶ自分(汗)(笑))

しかし、事の重大さや大谷の抱える闇の深さを察知した岡田は、
いとも簡単に佐知から身を引いて逃げ出すのだ。

ワタシャ、このシーンで、
ちょっと岡田よぉ!惚れた女だったんでしょう?
略奪婚するつもりのわりには、大谷の不気味さに気おされて、
簡単に身を引きすぎだな・・意気地がなさすぎじゃない?(--;)と
思わずにはいられなかったし。

この事件について、佐知もそうとうショックを受けているんだよねぇ。
やはり大谷のことが好きなのか・・と

大谷なんぞ、いないほうが、いーんでないの?
自分の人生を生きなおす良いチャンスなんでないの?とか・・
私は大谷が大嫌いな人種なので、どこまでいっても佐知の気持ちは
はかりしれないんだなぁ・・としみじみ思ってしまいましたがな。・・

で、そうして逃げた先で、死にたい病が勃発する大谷。
自分に貢いでくれた愛人のやっているバーへでかけ、

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「雨が降ると死にたい」
「この時期になると死にたくなる」
と、また私の勘にさわる!もったいぶったモノのいいかたで!
「死にたい・・死にたい」を連呼し
(-_-メ;)テメェ マタカッ!・・・(怒)

「また死にたくなった?」とたずねる愛人に
「つきあってくれますか?」と心中を誘う大谷。
また、いとも簡単に「いいわよ」という愛人の神経がね・・

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これまた、凄まじく私の勘に触るのだ。

勝手にいっちまえ!でも迷惑かけずいきやがれ!
と、この二人の尻を思いっきり蹴り飛ばしてやりたい衝動に
映画を観ながら、何度も私はかられましたな。(--)

で、この物語が世に発売されているということは、
大谷と愛人の薬物心中は未遂で、どちらも助かってしまうのである。
ただし大谷は殺人未遂の疑いがかかり、佐知はかっての想い人であった辻に、
大谷の弁護を頼んでから、未遂事件を起こした山梨へ
大谷に面会しに、すっとんでいき。(--)ウーン。

警察署の廊下で、

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大谷が、共に死んでくれる相手として自分を選んでくれた・・という喜びにひたり
勝ち誇った笑みを本妻にむける愛人と・・

懸命に生きようとしているのに、夫は死に暴走したがり・・
困惑する妻。

が交差するのだ。

ねぇ。。だから佐知さーん!大谷とは離婚したほうがいいって!という言葉が
自分の心の中でリフレインしまくりましたがな。

そして面会室であった大谷に、
「夫に心中された妻はどうしたらいいの?」と
(以前、大谷が「妻を寝どられる男になりそうだ・・」と言ったことへの
あてこすりのようにも私はきこえたが)
涙ながらにたずねる佐知に、

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大谷は
「勝手なようだが今は責めないでくれるか」
「こういうことになって、やっと生きていけるような気持ちになっているんだ」

と、のたまうのである。

もうこのシーンとこのセリフを聞いて、わたしゃ放心状態。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・( ゚ ρ ゚ )←怒りの言葉もバカらしくて出なくなっている。

なんだかねぇ・・映画が始まり中盤を越えて、映画が終わりに近づくにつれて、
だんだんと、私は自分の怒る力がそがれてきて、脱力感がともなってきた。

もうこの夫婦は、自分たちの思うとおり、
好きなように生きれば・・いーんじゃない?
という、諦めに似た感情が自分を包んでくるのだ。

私はこういう男!や、こういった人生を送るなんざぁ!
真っ平ゴメンだけれども、佐知は大谷と生きることしか考えていないんだものねぇ。
ましてや大谷と別れる・・なんてことはひとかけらだって、もっていない。

佐知は懸命に前向きに生きるしかできないし
大谷は後ろむきで、「死にたい」という想いを抱えながら
生きてゆくしか、もうできないのだ。

なら二人で行き着くとこまでいってもらいましょうか・・ε-(ーдー)ハァ なのだ。

もうこういった結論が自分の中にでてしまってからは、
この映画を観ていて大きな感想の波が、激しく動くことはなくなっていた。

佐知がその後、大谷の弁護を請け負ってくれた辻と関係を結んでも、
まぁこれも人生。止めません!やっちゃってくださいよ・・
という気分が私を支配し<(; ̄ ・ ̄)=3 フゥ...

そして
大谷が佐知の働く飲み屋に、ずうずうしく顔をだして、
佐知から酒をついでもらうのも、二人の人生。( ̄◇ ̄)ハイハイ。

佐知が大谷に言う
私たちは、ただ生きていけるだけでいいの・・

は、この映画の全てを観終わった観客たちが
ちょっとだけ理解のできる言葉のような気がした。


しかしねぇ・・こういう余韻をふみながら、
エンディングロールを観て、映画館の灯りがパッとついて
お客さんたちが席をたったときに、

ある若いカップルの女のほうが彼氏にむかって、

「なんで離婚しないんだろ!」と言っていたのには笑えた。

私もそう思うけれども、まぁ・・二人の人生なんだねぇ・・
仕方がないんだと。(^^;)

純文学を限りなく純文学にそって映画にした作品。
映画にでてくる俳優たちすべてが、真剣に演じていて
地味だけれども、なかなか・・感情を揺さぶられる。

まぁ・・お時間のあるかた、大人向けの映画ですが・・お薦めです。


最後の宣伝。
DVDは出ていないので、この映画の原作本を紹介。
実は私もこの小説は読んだことがないのだ。
これを機会に読んでみてもいいかな。(笑)



ヴィヨンの妻 (新潮文庫)

ヴィヨンの妻 (新潮文庫)

  • 作者: 太宰 治
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1950/12
  • メディア: 文庫



こちらは太宰論。といっても固いものではなくて、太宰と太宰に関わった女たち、
そして、それらがいかに太宰の小説に反映されたかを語っている。
映画を観終わったあとに発売されて、興味をもって買って読んだのだけれども
スルスルと読めて、面白かったなぁ。(2010.01.11追記)


太宰治の女たち (幻冬舎新書 や 6-1)

太宰治の女たち (幻冬舎新書 や 6-1)

  • 作者: 山川 健一
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2009/11/27
  • メディア: 新書



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まなてぃ

komoさん、ご訪問とniceどうもありがとう。(^^)
by まなてぃ (2009-10-14 18:20) 

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